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私が難病・重度障害者を支援する合理的な理由 ~ダイジェスト版~

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かつては,「戦争」が人類のテクノロジーと社会制度の進化を強力に後押ししてきました。「戦争」は個人の生命・民族や国家の存続を脅かす最大の脅威だったので,我々の先祖たちはその対策に膨大なお金と労力をかけてきました。

この100年間をみると,その産物として飛行機や宇宙船,コンピュータやインターネット,はたまた電子レンジなどが誕生しました。最先端のテクノロジーは,常に「戦争」がもたらしてきたのです。

社会制度に関しても「戦争」は無関係ではありません。国民を教育し,インフラを整えて産業を育成することは,ほぼ直接的に「戦争」に対応しやすくなるからです。

「戦争」は,言うまでもなく人間に最大級の災いをもたらします。でも,同時に驚異的なテクノロジーの進化をもたらしてくれたのもまた事実なのです。そして,原子力爆弾の発明と使用をもって,相手を殲滅するための効率的な破壊と殺戮テクノロジーは,行き着くところまで行ってしまいました。

今,もう「戦争」に依存する必要はなくなりつつあり,逆に身の回りの製品が兵器に応用されるようになっています。たとえば,ドローンのように。この50年,通信や移動のテクノロジーが進化したこともあって,自動車・家電製品やサービス分野でも世界大戦が勃発しています。もはや,物理的な戦争に代わって,経済活動をベースにした熾烈なテクノロジー競争が起きているのです。

では現在,そして近い将来にわたって人間のテクノロジーを進化させる最先端はどこにあるのか?

それは,人間そのものを対象にした分野です。もっと言えば,病気や障害を克服するテクノロジーです。人間の能力を拡張したり補完するテクノロジーは,この10年で勢いをグングン増しています。 あらゆる分野のテクノロジーの進化がそれを可能にしました。 たとえば,多種多様な学術分野を統合したサイバニクスはその最たる例でしょう。

社会制度でいえば,ノーマライゼーションが叫ばれるようになったのもその一端といえるかもしれません。 合理的配慮やバリアフリーなどの言葉も,この10年ですっかり日常的なものになってきました。

これらを踏まえると,私が重度障害者を支援する理由は,以下の3つにまとめることができます。


私が重度障害者を支援する3つの理由

  1. 難病・重度障害者たちは,身をもって社会の改善すべき点を可視化してくれます
  2. 難病・重度障害者たちが発見(体験)した課題の数々は,テクノロジーや社会を成長させてくれています
  3. 難病・重度障害者が人として生きられる社会は,もっとも進化した社会でしょう!

難病・重度障害者たちは,日々の生活さえままなりません。人並み以上の努力と理不尽さを克服して,ようやく人並みに暮らせるのです。身体の不自由や社会制度のミスマッチなど,大変な思いをしています。当事者たちの犠牲と引き換えに,テクノロジーや社会制度の未熟さが浮き彫りなって可視化されるのです。決してその犠牲という名の貢献を無駄にしてはなりません。

難病や難治性疾患の患者は,医療系のテクノロジーの進化を強力に促します。2018年のノーベル賞にはがんの免疫療法が選ばれましたし,iPS細胞の応用研究は多くの難病をターゲットにしています。

私たちは不具合を感じてこそ,そのモノの存在を感じることができます。そう,足の小指をぶつけた時に,あの小さな存在をイヤというほど感じるように。病気や障害もきっとそうです。身体の不具合(病気)があるからこそ,それを改善しようとして医学が成り立ち,多くの人が救われています。だから,医者は患者に感謝こそすれ,エラそうにしてはいけません。健康な人にとって,目の前の病人や障害者は明日の自分です。目の前の病人や障害者が救う努力をするということは,未来の自分が救われるということは言うまでもありません。

重度障害者は,主にテクノロジーの進化を加速させます。両足がなくても自由に歩ける技術は,さまざまな研究分野の集大成でしょう。脳波などの生体信号で手足を動かしたり,コミュニケーションを取ったりできれば,社会に復帰できる人は大勢いるに違いありません。子どもなら,可能性は無限大!

身体の不便があるからこそ,より快適に暮らすことを目指してテクノロジーを進化させます。寒い地域の国の方がテクノロジーが発達しているのはそのためです。かつては,自然環境が大敵でありそれ自体が「戦争」でした。そう考えれば,重度障害を持って生きるということは,未熟な社会においては「戦争」の最前線ともいえるのです。

これからの時代は,技術者は重度障害者と友達になったほうがいいでしょう。友達を自分の専門性で助けることができるのなら,その専門性はよりよいテクノロジーに昇華させることができます。愛情を込めた家庭料理ほど美味しいものがないのと同じように。

最近流行りの発達障害者などは,人の精神(魂)の仕組みをより深く考察させてくれるすばらしい教師です。彼らのユニークな特性があるからこそ,その他大勢が普段意識しない,人間の深い領域について理解できるようになるのではないでしょうか。全員が同じ思考回路だったら,それ自体を探求することなどないからです。普段,自動車に乗っててエバポレーターを意識しませんが,エアコンが故障するとその存在とともに,エアコンの仕組みの理解が進むのと同じです。

難病・重度障害者等の社会的弱者がよりよく生きられる社会は,持続可能な社会制度を備えた,すっかり進化した社会と言えるに違いません。人は誰でもいずれは衰えて障害者になるのですから,社会が進化していたほうがいいに決まってます。

以上のことから,重度障害児・者を支援するということは,社会全体をよくすることにもつながり,ひいては自分や家族のためにもなるということなのです。

実に合理的ではありませんか?

点滴中はちょっと暇

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